婚活「成多」(シーン3−1)



 婚活会場には、おどおどしながら席を探している男や、どうしたら良いのかわか
らないまま、何となく座っている女もいた。結美は、もう婚活も10回目となって
いるので、要領はわかっている。まずはめぼしい相手を見つけなければと思い、先
ほど貰ったプロフィールカードを見た。プロフィールカードを見て、ぱっとしない
なあと思っていた結美だったが、ある文字を見て、あっと思った。「社長」、これ
こそが私の求めていたものだと思い、社長と書いてあった成多に話しかけることに
した。                                  

 まずは、成多の近くを陣取った。成多は、ビシッとしたスーツ姿に、髪の手入れ
もしっかりしていた。あっ、やっぱり社長なんだなあと結美は思った。洗練された
姿なのは、結美でもわかった。そして、結美の予想どおり、成多の周りには、何人
かの女が集まってきていた。結美は気後れしたが、戸惑っている暇は無い、ここで
チャンスを掴むんだと意気込んで、成多に話しかけることを決めた。      

 先ほど、受付にいた女が現れた。どうやら司会者だったようだ。司会者の進行で、
ゲームみたいなことがおこなわれる。参加者の緊張をほぐしながら、コミュニケー
ションをとれるようにしているのだ。結美は、チャンスを待った。       

司会者「さーて、お待ちかねのフリートークタイムです。」          

 ときは来た。                              
結美「こんにちは!」                           
 成多は、結美を見た。気合いは感じた。が、おそらく年は30代後半だろうか、
自分ならもっと若い子でもいけるだろうと思った。興味が無いなと思った。それで
も、社長という経験をしてきた成多は、無駄な対立はせずにどうやり過ごすかを考
えながら、話を聞くことにした。                      
成多「こんにちは。」                           
結美「成多さんですよね。」                        
成多「はい。そうですが。」                        
結美「私は結美と言います。よろしくお願いします。成多さんは、お仕事は何をさ
   れているんですか?」                        
成多「はい。私は、実は、小さな会社なんですが、こう見えても、代表取締役をや
   っているんですよ。」                        
結美「代表取締役?社長って書いてありましたよ?」             
 成多は、この娘はそんなことも知らないのかと思ったが、答えた。      
成多「世間で言うところの社長ですね。お恥ずかしい限りですが。」      
 結美は、やっと運命の人に出会えたのかと、舞い上がりながら言った。    
結美「すごーい。」                            
 成多は、多少気を良くしたが、良くある反応なので、無難にやり過ごそうという
気持ちは変わらなかった。だから、世間話をすることにした。         
成多「小さい会社ですが、なかなか大変なんです。従業員を路頭に迷わせないため
   に、奮闘しています。」                       
結美「大変なんですね〜。ちなみに、年収はいくらくらいなんです?」     
 成多は、この娘も年収ばかりを聞いて、人の話を聞こうとしないんだなと思った。
内心、時間の無駄だなと思い、早くやり過ごせないかなと考えながら答えた。  
成多「2000万くらいかな。小さな会社ですので。」            
 結美は、この人を逃がすと後は無いと思い、相手のタイプに合わせることにした。
結美「成多さんは、どんな人がタイプなんですか?」             
成多「優しくて、温かい料理で帰りを迎えてくれるような人が良いですね。」  
 成多のような仕事が忙しいタイプは、家庭的なタイプを好む。結美は、自分はそ
ういうタイプでは無いかもしれないなとは思ったが、頑張ればなんとかなるかなと
話を続けた。                               
結美「私、肉じゃがとか得意ですよ〜。」                  
 結美は、男性は肉じゃがが好きというどこかの雑誌に書いてありそうな定番の答
えを言ってみた。                             
成多「ははっ。肉じゃがは美味しいですね。」                

 と、突然、横から声がした。                       
洋子「すいません〜。こんにちは!」                    
 結美がそちらを見ると、20代前半くらいの若い女がいた。洋子は、待ってても
らちが明かないと思い、しびれを切らして話に割り込むことにしたのだ。成多は、
今度の子の方が若いと思い、内心嬉しかった。                
成多「こんにちは。」                           
洋子「楽しそうなので、私も会話に混ぜてください!」            
成多「今、料理の話をしてました。」                    
洋子「料理ですか〜。私、こう見えても、レストランで働いていたことがあるんで
   すよ〜。」                             
成多「そうですか。どのような料理をされるんです?」            
洋子「ハンバーグとか、ビーフシチューとか。美味しいもの沢山つくれますよ!」
成多「そうですか。是非とも食べてみたいですね。」             
 結美があっけにとられている間に、主導権が完全に洋子に移ったようだ。その上、
洋子と会話する成多は結美と話をするより楽しそうだ。            
結美「あっ、あの。」                           
洋子「グラタンとか、そういうのもつくれますよ〜。スープも得意なんです。」 
成多「仕事の後に、家に帰って温かいスープが飲めると最高ですね。」     
洋子「私なら、家に帰ってきたら、あーんします。」             
成多「ははっ。それは嬉しいような。恥ずかしいような。」          

 結美が入る隙は無かった。結美を横目に、2人は盛り上がっている。結美は、ボ
ソッとつぶやいた。                            
結美「な、なんなの?」                          
 結美は、これは無理だなと悟り、後ろ髪を引かれつつも、他の人のところに行く
ことにし、席を立った。                          

  シーン3以降は、現在一部公開です。
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